調製・取扱い・失活・廃棄 | 治療一般 | 上肢痙縮・下肢痙縮 | 眼瞼痙攣・片側顔面痙攣 | 痙性斜頸 | 重度の原発性腋窩多汗症
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Q1 ボトックスとは何?
A1
ボツリヌス菌Clostridum botulinumにより産生されるA型ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤です。2024年6月現在、国内では以下の適応症に対する効能又は効果が認められています。
○眼瞼痙攣、○片側顔面痙攣、○痙性斜頸、○上肢痙縮、○下肢痙縮、○重度の原発性腋窩多汗症、○斜視、○痙攣性発声障害、○既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁、○既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない神経因性膀胱による尿失禁ボトックスの作用機序は以下の2通りです。
①筋弛緩作用:末梢の神経筋接合部における神経筋伝達を阻害することにより発現
②発汗抑制作用:交感神経と汗腺の接合部における神経伝達を阻害することに発現
ボトックス電子添文2024年6月改訂(第3版) -
Q2 ボトックス 1バイアル中に含まれる成分および添加物は?
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Q3 ボトックスの基本情報(薬価基準収載年月日、発売年月日、承認年月日、国際誕生年月日、薬効分類、規制区分、和名、一般和名、洋名、一般洋名、名称の由来)は?
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Q4 ボトックスの溶解・調製方法は?
A4
ボトックスは保存剤を含まない日局生理食塩液(生食)で溶解します。一般的に、多量の生食で溶解した薄い薬液は広い範囲、少量の生食で溶解した濃い薬液は狭い範囲に効果を及ぼすとされます[1][2]。
対象筋の大きさに応じて濃度を調整することが一般的です。以下の数値はあくまでも目安とお考えください。〇眼瞼痙攣、片側顔面痙攣:50単位製剤を0.5~1mL程度の生食で溶解するのが一般的。眼科では50単位/2mLとされることも多い[3][4]。
〇痙性斜頸:通常は100単位製剤を1~2mL程度の生食で溶解するが、治療対象筋が大きい場合は、より多くの生食を用いることもある[5]。
〇痙縮:100単位製剤を4mL程度の生食で溶解するのが一般的(治験では上肢痙縮が100単位/2mL、下肢痙縮が100単位/8mL)[5]。
〇腋窩多汗症:100単位製剤を4mLの生食で溶解することが推奨される(治験も同様)。
〇斜視:1筋あたりの薬液量を0.05~0.15mLとすることが推奨[6]されており、1筋あたりの投与量が1.25単位なら50単位/4mL、2.5単位なら50単位/2mL、といった使い分けが必要。
〇痙攣性発声障害:片側あたり(=1筋あたり)の薬液量を0.1mLとすることが推奨される[6]。片側あたりの投与量が2.5単位であれば、50単位製剤を2mLの生理食塩液で溶解するのが一般的。
〇過活動膀胱:100単位を10mLの生食で溶解し、20ヵ所に分割して注射することが推奨されている[6]。
〇神経因性膀胱:200単位を30mLの生食で溶解し、30ヵ所に分割して注射することが推奨されている[6]。神経因性膀胱への投与に際し、本剤200単位を30mLの薬液として調製する場合は、①100単位バイアル2本をそれぞれ6mLの日局生理食塩液で溶解し、②合計12mLの薬液を3本の10mLシリンジに4mLずつ吸引した後、③各シリンジに追加で6mLの日局生理食塩液を吸引する。3本のシリンジはそれぞれ薬液10mL(約67単位)を含有する[6]。溶解液の量(日局生理食塩液) 溶解後のボツリヌス毒素濃度 50単位 1.0mL 5.0単位/0.1mL 2.0mL 2.5単位/0.1mL 4.0mL 1.25単位/0.1mL 5.0mL 1.0単位/0.1mL 100単位 1.0mL 10.0単位/0.1mL 2.0mL 5.0単位/0.1mL 4.0mL 2.5単位/0.1mL 8.0mL 1.25単位/0.1mL 10.0mL 1.0単位/0.1mL -
Q5 ボトックスの有効期限または使用期限、貯法・保存方法は?
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Q6 ボトックスは、医師なら誰でも使用(投与)可能か?
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Q7 ボトックスによる汚染が生じた場合の処理方法は?
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Q8 ボトックスの失活・廃棄は必ず実施しなければならないのか?
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Q9 ボトックスの失活・廃棄の方法は?
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Q1 ボトックスの副作用にはどのようなものがありますか?
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Q2 施注時の患者さんの姿勢は?
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Q3 施注時の痛みはどの程度か?軽減策はあるか?
A3
痛みに対する感受性は個人差が大きく、一概に述べることはできません。
一般に細い針を使用したほうが痛みが軽減されます。[1]
眼瞼痙攣や片側顔面痙攣、腋窩多汗症に対しては30ゲージ程度の針を使用することが推奨されています。
過活動膀胱および神経因性膀胱の治療では、必要に応じて27ゲージ針の使用も可能です。
痙性斜頸や上肢痙縮・下肢痙縮では23~30ゲージが用いられますが、体動が大きい場合には針が破損する危険があるため、細い針で施注する場合には十分な注意が必要です。また、注射前にアイスパックで注射部位を冷やすことや、局所麻酔テープ(リドカインテープ)、局所麻酔クリームなどが用いられる場合もあります [2]。
斜視では点眼麻酔薬の投与が推奨されています [3]。また、患者の年齢や状態に応じ、浸潤麻酔薬及び全身麻酔薬の使用も検討します [4]。過活動膀胱*1および神経因性膀胱*2では疼痛を軽減するために、必要に応じて局所麻酔薬の注入による膀胱粘膜麻酔や鎮静薬の投与を行うこと、と電子添文に記載されています [3]。*1 既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁、
*2 既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない神経因性膀胱による尿失禁[1] Skiveren J et al. Acta Derm Venereol. 2011; 91: 72-74
[2] 目崎高広、梶龍兒.ジストニアとボツリヌス治療(改訂第2版), p.66 - 75, 診断と治療社 2005
[3] ボトックス電子添文2024年6月改訂(第3版)
[4] ボトックスインタビューフォーム -
Q4 ボトックス投与後の注意、注射部位に対する注意はあるか?施注後すぐに帰宅させても良いか?
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Q5 治療後の日常生活上の制限は?
A5
眼瞼痙攣・片側顔面痙攣では顔面部に注射しますので、注射当日の洗顔・化粧は不可となります。痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・重度の原発性腋窩多汗症・斜視・痙攣性発声障害では、注射当日は、注射部位をもむことや入浴、激しい運動などを控えさせてください。また、ボツリヌス毒素はアルカリで失活しますので、針穴が完全に閉じるまで(数分)、注射部位を石鹸で洗わないように指導してください。
注射の翌日以降は、特に日常生活上の制限はありませんが、副作用が発現する可能性がありますので、異常が認められた場合にはすぐに相談いただくように指導してください。副作用に関する詳細は電子添文の副作用の項および各臨床成績の項の安全性の結果をご参照ください。
参考文献
ボトックス電子添文2024年6月改訂(第3版)
目崎高広. ジストニアとボツリヌス治療(改訂第2版). 2005:76 -
Q6 使用する注射針の太さおよび長さは?
A6
眼瞼痙攣、片側顔面痙攣の治療では26~30ゲージ、痙性斜頸や上肢痙縮・下肢痙縮では23~30ゲージが基本とされます[1][2][3]。
腋窩多汗症の治療では30~32ゲージが用いられています[4]。
斜視の国内臨床試験では27ゲージ、37mmの注射針が使用されました。
痙攣性発声障害の治療では26ゲージ程度の針が使用されています。
また、針の長さはおおむね太さに応じて決まりますが、眼瞼痙攣・片側顔面痙攣・腋窩多汗症では数mm程度で十分であるのに対し、痙性斜頸や痙縮、斜視、痙攣性発声障害では対象筋に到達させるため、ある程度の長さが必要となります。
過活動膀胱及び神経因性膀胱においては膀胱鏡用注射針を使用します。
[1] 目崎高広. ジストニアとボツリヌス治療(改訂第2版). 2005:66-75
[2] 目崎高広. 神経内科. 2006;65(2):189-192
[3] 木村彰男. 痙縮のボツリヌス治療. 2010:80-82
[4] 玉田康彦. 多汗症のボツリヌス治療.2015:36-39 -
Q7 避妊はどれくらい必要?
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Q8 以前にボツリヌス中毒により抗毒素を投与された経験のある患者さんへの投与は可能?
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Q9 眼球穿刺を起こしたときの対処方法は?
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Q1 脳卒中後の痙縮に対するボツリヌス療法は、脳卒中発症後どれくらいの時期に始めるのが最も効果的か?
A1
欧州およびUKにおける痙縮に対するボツリヌス療法のガイドラインでは、治療を始める時期が明記されていません。文献では、脳卒中発症から6週間以上[1]、3ヵ月以上[2],[3]、6ヵ月以上[4]など、さまざまな開始時期の報告があります。
[1] Childers MK, et al. Arch Phys Med Rehabil 2004; 85:1063-1069.
[2] Rosales RL, et al. J Neural Transm 2008; 115:617-623.
[3] Bakheit AM, et al. Eur J Neurol 2001; 8:559-565.
[4] Brashear A, et al. N Engl J Med 2002; 347:395-400. -
Q2 国内臨床試験では、痙縮発症から何年以内の患者がボツリヌス療法の対象とされたか?
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Q3 上肢と下肢の両方で痙縮がみられる場合、ボトックスで同時に治療することは可能ですか?また、投与量の目安は?
A3
ボトックスの電子添文には以下の通り記載されています。
複数の適応に本剤を同時投与する場合には、それぞれの効能又は効果で規定されている投与量の上限及び投与間隔を厳守するとともに、12週間のA型ボツリヌス毒素の累積投与量として以下の用量を上限とすること。
・成人の上肢痙縮及び下肢痙縮に対する同時投与:合計600単位を上限とし、患者の状態に応じて徐々に増量する等、慎重に投与すること。
・小児の上肢痙縮及び下肢痙縮に対する同時投与:合計10単位/kgと340単位のいずれも超えないこと。
・その他の複数の適応に対する同時投与:安全性が確立されていないため、複数の適応に本剤を同時に投与しないことが望ましい。やむを得ず同時に投与する場合、成人では合計400単位を上限とし、小児では合計10単位/kgと340単位のいずれも超えないこと。ボトックス電子添文2024年6月改訂(第3版)
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Q4 痙縮による複数の姿勢異常があるとき、投与部位の決定方法は?
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Q5 理学療法や作業療法を行わない上肢・下肢痙縮患者にはボツリヌス療法を施行できないか?
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Q6 前回のボツリヌス療法の効果が不十分の場合、その原因はなんですか?
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Q1 眼瞼痙攣・片側顔面痙攣と鑑別すべき 疾患は?
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Q2 下眼瞼の鼻側に施注してもよい?
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Q3 片側顔面痙攣でボツリヌス療法を優先する対象となる患者さんは?
A3
片側顔面痙攣の根治療法として神経血管減圧術(Jannetta手術)がありますが、顔面痙攣は生命に関わる病態ではないため、患者さんは手術を忌避する傾向が強いようです。以下のような理由で手術の施行が難しい患者さんはボツリヌス療法の対象となります。
- 手術は全身麻酔で行われるため、全身麻酔にハイリスクである患者さん
- 手術による聴力障害の発生リスクは低いものの、発生すればQOLを著しく低下させることから、既に健側に聴力障害のある患者さん
- 過去に手術を施行されても症状が改善しなかった患者さん
- 手術で痙攣が消失したものの、数年を経て再発した患者さん
- 他の理由で手術を受け入れられない患者さん
[1] 日本神経治療学会治療指針作成委員会編. 標準的神経治療:片側顔面痙攣. 神経治療 2008;25:481-493.
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Q1 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与するときのポイントは?
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Q2 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与してから、効果が現れるまでの日数は?また、効果の持続期間は?
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Q3 欧米諸国では、原発性腋窩多汗症治療におけるボツリヌス療法はどのように位置づけられているか?
A3
海外の診療ガイドラインでは、塩化アルミニウム外用剤(2024年5月時点で本邦未承認)が無効な場合、あるいは副作用により塩化アルミニウム外用剤を継続できない場合の第2選択治療としてボツリヌス療法を推奨しています[1]。また、ボトックスの原発性腋窩多汗症の効能は、米国や英国、フランス、ドイツをはじめとする90ヵ国以上で承認を得ています(2024年1月現在)。
[1] Hornberger J, et al. Recognition, diagnosis, and treatment of primary focal hyperhidrosis. J Am Acad Dermatol. 2004; 51: 274-286.
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Q4 日本の診療ガイドラインにおいて、原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス療法はどのように評価されているか?