【上肢痙縮】
用法及び用量
成人
通常、成人にはA型ボツリヌス毒素として複数の緊張筋※に合計400単位を分割して筋肉内注射する。1回あたりの投与量は最大400単位であるが、対象となる緊張筋の種類や数により、必要最小限となるよう適宜減量する。また、再投与は前回の効果が減弱した場合に可能であるが、投与間隔は12週以上とすること。
小児
通常、2歳以上の小児にはA型ボツリヌス毒素として複数の緊張筋※に合計3~6単位/kgを分割して筋肉内注射する。1回あたりの投与量は6単位/kgと200単位のいずれも超えないこととし、対象となる緊張筋の種類や数により、必要最小限となるよう適宜減量する。また、再投与は前回の効果が減弱した場合に可能であるが、投与間隔は12週以上とすること。
※緊張筋:上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、長母指屈筋、母指内転筋等
臨床試験における投与筋、投与量、投与部位数
成人
投与筋 | 投与量(単位) | 投与部位数(部位) |
---|---|---|
上腕二頭筋 | 70 | 2 |
上腕筋 | 45 | 1 |
腕橈骨筋 | 45 | 1 |
橈側手根屈筋 | 50 | 1 |
尺側手根屈筋 | 50 | 1 |
深指屈筋 | 50 | 1 |
浅指屈筋 | 50 | 1 |
長母指屈筋 | 20 | 1 |
母指内転筋 | 20 | 1 |
小児
投与筋 | 投与量(単位/kg) | 投与部位数(部位) |
---|---|---|
上腕二頭筋 | 1.5~3.0 | 4 |
上腕筋 | 1.0~2.0 | 2 |
腕橈骨筋 | 0.5~1.0 | 2 |
橈側手根屈筋 | 1.0~2.0 | 2 |
尺側手根屈筋 | 1.0~2.0 | 2 |
深指屈筋 | 0.5~1.0 | 2 |
浅指屈筋 | 0.5~1.0 | 2 |
関与する筋
上肢でよくみられる姿勢異常には、以下のような筋が関与しています。
肩関節の内転・内旋
肘関節の屈曲
前腕の回内
手関節の屈曲
にぎりこぶし状変形
掌中への母指屈曲
投与部位の決定
上肢痙縮では、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、長母指屈筋、母指内転筋などに筋肉内注射します。以下に、投与部位を示します。
橈側手根屈筋への投与
上腕骨内側上顆と上腕二頭筋腱を結ぶ線分の中点から3~4横指遠位部に、1~2ヵ所注射します。
注射針の挿入が深すぎると、浅指屈筋に入る可能性があり、さらに深すぎると長母指屈筋に入る可能性があります。また、橈側に寄り過ぎると円回内筋に、尺側に寄り過ぎると長掌筋に入る可能性があります。
尺側手根屈筋への投与
前腕の近位部1/3等分の高さで、尺骨の掌側2横指の部位に、1~2ヵ所注射します。
注射針の挿入が深すぎると、深指屈筋に入る可能性があります。
深指屈筋への投与
検者の小指の先端が肘頭に来るようにし、環指、中指、示指を尺骨幹に沿って並べ、示指先端の骨幹掌側に1~2ヵ所注射します。
注射針の挿入が掌側に寄り過ぎると、尺側手根屈筋に入る可能性があります。
浅指屈筋への投与
患者さんの手関節の手掌面を握って、示指を上腕二頭筋腱に向かって伸ばし、示指の先端の尺側に1~4ヵ所注射します。
注射針の挿入が橈側に寄り過ぎると橈側手根屈筋に入り、尺側に寄り過ぎると尺側手根屈筋に入る可能性があります。
長母指屈筋への投与
前腕中央部で橈骨掌側の尺側縁に針を挿入し、橈側手根屈筋および浅指屈筋を貫通して長母指屈筋に到達させ、1ヵ所に注射します。
注射針の挿入が浅すぎると、浅指屈筋に入る可能性があります。
母指内転筋への投与
第1指間の非固定部に針を挿入し、第1中手骨底に向かって進入させ、1ヵ所に注射します。
【下肢痙縮】
用法及び用量
成人
通常、成人にはA型ボツリヌス毒素として複数の緊張筋※に合計300単位を分割して筋肉内注射する。1回あたりの投与量は最大300単位であるが、対象となる緊張筋の種類や数により、必要最小限となるよう適宜減量する。また、再投与は前回の効果が減弱した場合に可能であるが、投与間隔は12週以上とすること。
小児
通常、2歳以上の小児にはA型ボツリヌス毒素として複数の緊張筋※に合計4~8単位/kgを分割して筋肉内注射する。1回あたりの投与量は、一側下肢への投与で8単位/kgと300単位、両下肢への投与で10単位/kgと340単位のいずれも超えないこととし、対象となる緊張筋の種類や数により、必要最小限となるよう適宜減量する。また、再投与は前回の効果が減弱した場合に可能であるが、投与間隔は12週以上とすること。
※ 緊張筋:腓腹筋(内側頭、外側頭)、ヒラメ筋、後脛骨筋等
臨床試験における投与筋、投与量、投与部位数
成人
投与筋 | 投与量(単位) | 投与部位数(部位) |
---|---|---|
腓腹筋(内側頭) | 75 | 3 |
腓腹筋(外側頭) | 75 | 3 |
ヒラメ筋 | 75 | 3 |
後脛骨筋 | 75 | 3 |
小児
投与筋 | 投与量(単位/kg) | 投与部位数(部位) |
---|---|---|
腓腹筋(内側頭) | 1.0~2.0 | 2 |
腓腹筋(外側頭) | 1.0~2.0 | 2 |
ヒラメ筋 | 1.0~2.0 | 2 |
後脛骨筋 | 1.0~2.0 | 2 |
関与する筋
下肢でよくみられる姿勢異常には、以下のような筋が関与しています。
股関節の内転
股関節の屈曲
膝関節の屈曲
膝関節の過伸展
尖足・内反尖足
母趾過伸展
投与部位の決定
下肢痙縮では、腓腹筋(内側頭、外側頭)、ヒラメ筋、後脛骨筋などに筋肉内注射します。以下に、投与部位を示します。
腓腹筋(内側頭、外側頭)への投与
下腿の近位1/3部で、触診により腓腹筋の内側頭と外側頭を確認し、この高さを中心に内側頭1~3ヵ所(小児の場合は1~2ヵ所)、外側頭1~3ヵ所(小児の場合は1~2ヵ所)に注射します。
外側頭への注射時に、注射針の挿入が外側に寄り過ぎると、長腓骨筋に入る可能性があります。また、注射針の挿入が深すぎると、ヒラメ筋、長趾屈筋、後脛骨筋、長母趾屈筋に入る可能性があるほか、血管や神経に接触する可能性があります。なお、うつぶせ姿勢では下腿下に枕を入れ、足関節を背屈させて、腓腹筋を軽く伸展させると触診しやすくなります。
ヒラメ筋への投与
下腿中央の高さで1~3ヵ所(小児の場合は1~2ヵ所)に注射します。
注射針の挿入が深すぎると、長趾屈筋、後脛骨筋または長母趾屈筋に入る可能性があるほか、血管や神経に接触する可能性があります。
後脛骨筋への投与
下腿中央の高さで1~3ヵ所(小児の場合は1~2ヵ所)に注射します。後脛骨筋は脛骨の後部にあり、直接触診はできないので、超音波ガイドや筋電図モニター、電気刺激で同定します。下腿の中央部で、脛骨の後面に沿って挿入します。
注射針の挿入が浅いと、長趾屈筋に入る可能性があります。また、後脛骨動・静脈、腓骨動・静脈および脛骨神経がヒラメ筋と長趾屈筋、後脛骨筋との間にあるので、針を後方へ進めないように注意します。前方には前脛骨動・静脈もあります。
施注のポイント
緊張筋の同定が困難な場合には、筋電計、超音波検査やスティミュレーター等を用いて注意深く目標とする部位を同定し、筋ごとの適切な部位および投与量に留意して投与します。[1]
安静を保てない患者では、鎮静薬や局所麻酔薬を適宜併用します。なお、安静により痙縮症状が軽減されますので、鎮静前に筋緊張亢進部位を確認してください。
一般に、細い針のほうが痛みは少ないのですが、体動が大きいと針が破損する危険があります。下腿筋への施注の場合、23~30ゲージ針が用いられます。[2]
ボトックス電子添文2024年6月改訂(第3版)
阿部玲音ほか. 痙縮のボツリヌス治療(木村彰男編), 診断と治療社, 2010:79-85
ボツリヌス療法の効果が認められないことがあり、その原因として、用量が低すぎる可能性が考えられます。表に示したように、患者さんの体重、筋の大きさ、同時に注射する筋の数、痙縮の程度などに応じて、用量の設定を行います。[2]
用量の設定に際して考慮すべき点
患者の状態など | 筋あたりの用量 |
|
---|---|---|
以下の場合は用量を減らす | 以下の場合は用量を増やす | |
患者の体重 |
軽い |
重い |
筋の大きさ |
非常に小さい |
非常に大きい |
同時に注射する筋の数 |
多い |
少ない |
Ashworth Score |
低い |
非常に高い |
治療による筋力低下 |
著しい |
ほとんどない |
前回の治療効果 | 過剰な筋力低下 | 不十分な反応 |
痙縮の治療では、23~30ゲージの針が用いられています。一般に、細い針のほうが痛みは少ないと考えられますが、体動が大きいと針が破損する危険がありますので、筋の大きさや年齢などに合わせて針の太さを選択します。[3]
投与後の注意
ボツリヌス療法に伴う活動性の上昇や筋力バランスの変化により、転倒等が起こりやすくなる可能性があります。
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